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子供を預かることになった自由な同棲生活を送るカップルの揺れ動く心情を、即興的演技で描いたドラマ。監督は「2/デュオ」の諏訪敦彦。脚本はなく、監督と役者の綿密なディスカッションの下に作成された構成台本があるのみ。撮影を「椰子」の猪本雅三が担当している。主演は、三浦友和と「2/デュオ」の渡辺真起子、『幸せづくり』の子役・高橋隆大。第52回カンヌ国際映画祭国際批評家連盟賞受賞。
1999年製作/147分/日本
配給:サンセントシネマワークス(配給協力 樂社)
劇場公開日:1999年10月23日
新人 猪本雅三の仕事「M/OTHER」 渡辺 浩 キネマ旬報1999年9月上旬号
今回取り上げるのは、新人猪本雅三が撮影した「M/OTHER」(監督・諏訪敦彦)です。
作品としてもいいと思いますし、ルックを大変新鮮に感じます。
一本目の猪本雅三
新鮮に感じる原因は、説明的な情景などワンカットも撮らず、芝居だけを見据えて
いるキャメラのひたむきさだと思います。主人公でバツイチの哲郎(三浦友和)はレス
トラン・チェーンの二代目で45才。 デザイナーのアキ(渡辺真起子)は25才。二人は
自由な同棲生活を送っていましたが、突然、彼の先妻が交通事故に遭い、8才の息子
(高橋隆大)を預かることになります。アキは母親役と妻役をこなすことになり、哲郎
の今まで見えなかった面が見えてきて、自分を問いなおすことになるという話です。
監督の諏訪敦彦は、前作 「2/デュオ」でも脚本を作らず、構成台本だけで撮影に入り、
役の感情に身をまかせた俳優から出るセリフを取り上げて映画を作るというやり方で
した。同じような方法で作った二作目が「M/OTHER」で、今年のカンヌ映画祭批評家
連盟賞を獲りました。このユニークな撮影にも興味があったので、キャメラマンの
猪本雅三に会いました。
これが一本目になる猪本雅三は、円谷プロ、にっかつを経てフリーになった、十数年
の助手歴を持つ人です。どういう心構えでやってきたかを聞くと、「俳優の芝居を距離
をおいて見ていく。今まで自分のついた映画では、ともすれば画を作るために俳優の
動きを制限したり、ライトのあたる所に立つように注文しがちでしたが、今回は俳優に
自由に動いてもらって、それがよく見える位置にキャメラを置く。二人がもつれながら
リビングから寝室まで行くというように、パンでもフレームにおさまらなければ、動き
に密着して手持ちで追う。テストのたびに動きが変われば、そのたびにキャメラポジ
ションを変えるようにしたんです」と言っています。
かなり広い外人向け住宅のロケセットが主な現場で、家に残された子供の落書きから
この映画が始まるというのが、唯一の彼の主張でした。これ以外情景的なカットはなく、
それぞれの場で、何が大切かを、レンズを通して捜し出すセンスは高く評価できます。
猪本はこのことについて、「にっかつでキャメラマンになっていたら、先輩たちを見て
いますから、こういうシーンはこう撮るという真似から始めたと思います。しかしバブ
ルの崩壊でいろいろな仕事をしました。アダルドビデオ、Vシネマ、TV番組となんでも
やりました。中でもドキュメンタリー風の取材で、演出家がいても自分の判断で撮る。
それは音も含めてですよ。自分がその場のテーマを感じて撮っていく、これが勉強にな
りました。「2/デュオ』の助手をやって分かったんですが、僕は時間をかけて俳優が役作
りをしていくのをジーッと見ている。そして現場の空気から感じたものを吸収して、撮
る画に込めるというやり方が合っているようです」と言っています。
プロの仕事「M/OTHER」
「M/OTHER」を見て、二〇年前の 「Keiko」 を思い出しました。この作品もスタッフ、
キャストが三ヵ月間合宿し、撮りで京都に住む若いOLの心理を追っていました。当時、
その撮り方の新鮮さが話題になり「Keikoショック」という言葉ができたくらいです。
確かに内容は似ているところがありますが、「M/OTHER」と決定的に違うのは、プロの
キャメラマンが撮っているということです。
レンズの使い方がまず違います。ロケセットで引きがない場合、短焦点レンズを使う
のですが、短焦点レンズの歪みや欠点を、猪本は自分の技能でカバーしていきます。
「Keiko」 のDPアンドレ・ペルチエは、レズを画面の縦横比でしか使えていませんでし
た。この違いは大きいのです。ライティングも「M/OTHER」はリアルでいい。皮肉っ
ぽく言えば、ライトがなかったことがかえって表現を助けたのではないかと思います。
最初は自信がなかったのか、哲郎が子供の荷物を持って玄関から入ってくるカットでは、
ドアにライトの影が出ています。前半の重要なシーンであるコンピュータの前にアキと
哲郎がいる夜の長いカットでは、アキの顔を明るくするという目的のためだけにライト
が使われています。しかし後半になると、大胆にノーライトや、ノーライトに近い形の
中で芝居が進行し、アクチュアルな感じを出しています。シルエットも数カットありま
す。
私は日本映画にシルエットの表現がないのが不満でしたが、猪本は狙って芝居をシル
エットで見せようとします。シルエットに関しては、アメリカのクリエーター達の方が
意欲的に自分の表現に取り入れています。日本では、「ここはシルエットで」と思ってい
るDPも、なぜか現場では弱気になるようです。猪本は、にっかつの同期よりも数年
キャメラマンになるのが遅れたことであせっていたと言っていました。しかし、二年で
昇進しようと、二〇年目に一本目を撮ろうと、それは本質的な問題ではないでしょう。
ベルイマンと共に登場したニクヴィストは、若い時にDPをやってくれという話があ
ったのを、「まだ自分には勉強が足りない」と言って断ったといいます。 大切なのは、
優れた作品を撮りつづけていくことではないでしょうか。
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